先月はリオ五輪が開催され、数々のドラマが繰り広げられましたね!
今回はオリンピック選手だけでなく、我々人間の体に秘められた驚きのパワーについてご紹介したいと思います。
「火事場の馬鹿力」はなぜ出るの?
火事の真っただ中に、持ち上がるはずのないタンスや金庫を軽々とかつぐことができるのはホントの話。「火事場の馬鹿力」は、あなたのどこに秘められているのでしょうか?
私たちの筋肉パワーをコントロールしているのは神経です。神経からの情報は、指令を伝える末梢神経と、その指令を受信する筋肉の受信器(シナプス=樹状突起)を介して行われます。メッセンジャーがアセチルコリンという成分です。末梢神経の先から、アセチルコリンが筋肉細胞のシナプスに放出されると、それをきっかけに筋肉細胞の内部や細胞膜に変化が起こり、筋肉が働くしくみになっています。信号を送り届けたアセチルコリンは役目を終えたら、アセチルコリンエステラーゼという酵素によって分解されます。
私たちの筋肉はこのようなしくみでパワーを発揮するのですが、ふだんは100%の筋力を発揮させないしくみが備わっています。無理をしないように脳が体を守るための無意識のブレーキをかけているからです。最も努力したときに発揮できる筋肉の力(最大筋力)は、そのときの状況や心理状態で大きく変わることが分かっています。
最大筋力を発揮すれば、片腕で持つことのできる重さが「平時」の約10倍になった、という実験結果も報告されています。火事場のような危機では本能的にブレーキが外され、最大筋力が発揮されるということです。
馬鹿力を出したあとは、腰痛や腕の痛みが残ることもあります。ゆっくりお風呂に入って手足を伸ばし、「よくやったねえ筋肉さん!」と、感謝の気持ちを込めてマッサージしてあげましょう。
神経細胞の伝達速度は新幹線の2.5倍も速い
熱いやかんに指が触れると、わたしたちは目にも止まらぬ早業で手を引っ込めます。わたしたちが刺激を感じると、その刺激は神経細胞による伝達ルートに乗って脳にまで伝わります。すると、脳からはとっさの処置が指令されるのです。
伝達を担当する神経細胞は、受信アンテナ(シナプス)と送信ケーブル(軸索)の2つの部分から構成されています。受診アンテナと送信ケーブルの間でカルシウムの交換が行われると電気が発生して、刺激として伝わるというしくみです。緊急時には神経細胞をいくつも飛び越す現象が起きます。ふつうは神経細胞を各駅停車するように伝わる速度は、途中の駅をぶっ飛ばして走る超特急となるのです。
とっさのときの神経伝達のスピードは1秒間に120mといわれています。時速170kmの新幹線は1秒間に換算すると47mだから、神経伝達のスピードは新幹線より2.5倍も速いのです。ジャマイカのボルト選手をはじめ、世界中には100mを9秒台で走る選手たちがいますが、わたしたちが持つ能力をフルに発揮して「神経細胞」選手が走ったとすれば、らくらく1秒を切ることができるというわけです。
筋肉を強くするとは、筋肉を太くすること
筋肉には白い筋肉と赤い筋肉があります。主要なたんぱく質のアクチンとミオシンの配列が違うことで、筋肉の色が変わります。赤い筋肉の多いまぐろは、一生泳ぎ続けられる持久力があるし、泳ぎ続けていないと死んでしまいます。対して、白い筋肉の多いひらめは、つかもうとするとパッと逃げる瞬発力に優れているという特性があります。
一般的には、白い筋肉と赤い筋肉はほぼ1対1の割合ですが、マラソンなどの長距離種目の選手は赤い筋肉が多い「まぐろタイプ」だと有利だし、短距離種目の選手は白い筋肉が多い「ひらめタイプ」が有利です。どちらの筋肉が多いかは筋肉組織を針で採って調べれば分かります。
名コーチの資格には、その選手がまぐろタイプがひらめタイプがを見分ける能力も求められます。マラソンをやっていてなかなか芽が出ない選手が、走り高跳びや走り幅跳びにチャレンジしたところ、いきなり日本代表になることも夢ではありません。
筋力トレーニング(筋トレ)を行うと「筋肉力」が増します。わたしたちはふつう、筋肉を増やすと言っていますが、筋肉を鍛えても筋肉の数が増えるわけではありません。筋線維が太くなるのです。
筋トレの理論は「切ってはつなぎ、切ってはつなぎ効果」です。運動などである程度の負担がかかると筋線維が切れます。野球の場合、投手が1球投げるごとに筋線維は5本切れるといわれています。しかし、切れた筋線維も2時間後にはまたつながります。つながるときには前よりも20%増しの太さになった強い筋線維に変身を遂げているのです。